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パフォーマンスとコスト最適化において、インテリジェントなトラフィックステアリングが重要な理由

2025年3月27日
著者: Madan Gopal N
翻訳: 逆井 晶子

この記事は米Catchpoint Systems社のブログ記事「Why Intelligent Traffic Steering is Critical for Performance and Cost Optimization」の翻訳です。
Spelldataは、Catchpointの日本代理店です。
この記事は、Catchpoint Systemsの許可を得て、翻訳しています。


今日のグローバルに分散されたアプリケーションの世界では、ユーザー体験がすべてです。
プラットフォームが複数のクラウドプロバイダーにまたがって運用されている場合や、複数のPoP(points of presence)を持つマルチCDNを使用している場合でも、ユーザートラフィックを効率的にルーティングすることは、パフォーマンスに大きな影響を与えます。
このような背景から、インテリジェントなトラフィックステアリングは「あると便利」ではなく「必須」の機能となっています。

コアバンキングシステムのエンドツーエンドエコシステム
コアバンキングシステムのエンドツーエンドエコシステム

最近開催されたIBM NS1との共同ウェビナーにおいて、CatchpointのリアルタイムInternet Performance Monitoring (IPM)データが、NS1の強力なトラフィックステアリング機能とどのように統合されているかを紹介しました。
その目的は、トラフィックを単に最も近いサーバにルーティングするのではなく、最もパフォーマンスの優れたサーバにルーティングするという重要な課題を解決することです。

課題:動的な世界における静的ルーティング

従来、DNSベースのルーティング戦略として、ラウンドロビンや近接ベースの判断がユーザートラフィックの誘導に用いられてきました。
しかし、これらの手法はリアルタイムのパフォーマンス指標を考慮していません。
近くのサーバが高負荷状態にあったり、地域ISPに問題が発生していたりしても、静的ルーティングでは依然としてそのサーバにユーザーを導いてしまい、結果としてレイテンシの増加や体験の質の低下を招きます。

この問題は、マルチクラウドやマルチCDN環境ではさらに深刻化します。
ルーティングの非効率性により、クラウドおよびインフラストラクチャのコストも増加する可能性があります。

AWSとOracleクラウド環境における地域別パフォーマンスの違いとトラフィック分布
AWSとOracleクラウド環境における地域別パフォーマンスの違いとトラフィック分布

この図は、AWSとOracleを用いたマルチクラウド環境における典型的な課題を示しています。
地域ごとの応答速度を比較したマップでは、両プロバイダー間で地域ごとのパフォーマンスに明確な違いがあることを示しています。
それにもかかわらず、トラフィックは静的なラウンドロビン方式(AWS 52%、Oracle 48%)でルーティングされているため、パフォーマンスが劣る地域のユーザーも依然として遅いエンドポイントに誘導されています。

例えば、Oracleの経路では北米およびオセアニアで顕著なレイテンシが見られる一方、これらの地域ではAWSの方が優れたパフォーマンスを示しています。
パフォーマンスを考慮しないステアリングのままでは、非効率で一貫性のないユーザー体験が生じます。

解決策:CatchpointとIBM NS1による適応型トラフィックステアリング

Catchpointの広範なグローバルエージェントネットワーク(2,880を超えるインテリジェントエージェントと数百万の接続デバイス)と、IBM NS1のリアルタイムDNSトラフィックステアリング機能を組み合わせることで、組織はリアクティブな対応からプロアクティブでパフォーマンス主導のルーティングへと転換することができます。

Catchpointのグローバルエージェントネットワーク
Catchpointのグローバルエージェントネットワーク

以下のビデオでは、CatchpointとIBM NS1がどのように連携してリアルタイムかつパフォーマンス認識型のトラフィックステアリングを実現しているかの概要をご覧いただけます。

Catchpoint IPMは、バックボーン、ラストマイル、クラウド、無線ネットワークからの合成テストを使用して、DNS解決時間、接続時間、SSL、待機時間、総応答時間といったメトリクスを継続的に収集します。
このリアルタイムのテレメトリは、NS1のフィルターチェーンロジックに供給されます。

NS1は、これらのデータを高度なフィルターチェーンを通じて適用し、地理情報、ASN(自律システム番号)、可用性、実際のパフォーマンスに基づく判断をサポートします。
以下の図は、エンドユーザーのDNSリクエストがNS1を経由し、IPMによるパフォーマンスメトリクスが判断ロジックをどのように導くかを示しています。
これにより、トラフィックは単に最も近いサーバに送られるのではなく、その時点で最もパフォーマンスの高いサーバに送られることが保証されます。

NS1とCatchpointによるインテリジェントトラフィックステアリングを支えるリアルタイムメトリクスの仕組み
NS1とCatchpointによるインテリジェントトラフィックステアリングを支えるリアルタイムメトリクスの仕組み

このフィードバックループにより、真のリアルタイム最適ルーティングが実現され、エンドユーザーへの影響を待たずにレイテンシを大幅に削減し、信頼性を向上させることができます。

CatchpointデータをIBM NS1 Connectへ供給する

Catchpointは、リアルタイムのパフォーマンステレメトリをData Webhooksを使用してNS1 IBM Connectに直接送信することができます。
この仕組みによって、トラフィックステアリングは、推測ではなく実際に活用できるインサイトに基づいて行われるようになります。

DNS時間、接続時間、SSLハンドシェイクの所要時間、待機時間(初バイトまでの時間)、TTFB、総応答時間といったメトリクスはほんの始まりに過ぎません。
ユーザーは、CDN固有のサーバタイミングメトリクスやアプリケーション固有のパフォーマンスKPIなどのカスタムデータソースを取り込むことも可能です。
この柔軟性により、トラフィックステアリングのロジックは、速度、信頼性、コストのいずれを最適化する場合でも、ビジネスおよび技術要件に適切に適合させることができます。

IBM NS1 Connectにおけるマルチクラウドパフォーマンス比較へのCatchpoint IPMデータの活用
IBM NS1 Connectにおけるマルチクラウドパフォーマンス比較へのCatchpoint IPMデータの活用

これらすべてのデータは、NS1 Pulsarのフィルターチェーン処理ロジックにより利用され、ルーティングルールが動的に適用されます。
これらのフィルターは、地理情報、ASN(自律システム番号)、レイテンシ、可用性、あるいはCatchpoint IPMが提供する任意のパフォーマンス指標に基づいて、組み合わせて設定することができます。

Catchpoint IPMデータによって駆動されるNS1 Pulsarフィルターチェーン
Catchpoint IPMデータによって駆動されるNS1 Pulsarフィルターチェーン

その結果、ルーティングの判断は単に「賢い」だけでなく、最新のパフォーマンス状況に正確に適合するようになります。

実環境での効果:パフォーマンス向上とコスト削減

当社の共同実装例では、当初、トラフィックはAWSとOracleのクラウド環境にほぼ均等に分散されていました。
しかし、IPMデータに基づく動的ルーティングを有効にした結果、トラフィックの77%がよりパフォーマンスの良いクラウドリージョンにシフトし、応答遅延の大幅な削減とエンドユーザー体験の向上が実現しました。

トラフィックステアリングがクラウドトラフィック分布に与える影響
トラフィックステアリングがクラウドトラフィック分布に与える影響

結果は明らかです。

パフォーマンスベースのトラフィックステアリング有効化後の応答遅延の改善
パフォーマンスベースのトラフィックステアリング有効化後の応答遅延の改善

これらの改善は、デジタル体験を向上させるだけでなく、パフォーマンス低下によるフラストレーションやユーザー離脱も最小限に抑えます。
レイテンシの改善にとどまらず、トラフィックステアリングは運用効率の向上にも寄与します。
特定の地域でどのクラウドやPoPが最も高いパフォーマンスを発揮するかを理解することで、企業は以下のような対応が可能になります。

これこそが、プロアクティブかつパフォーマンスベースのトラフィックステアリングの効果です。

リアクティブではなく、プロアクティブに

従来の多くのモニタリングツールは、リアルユーザーモニタリング(RUM)データに依存しており、それはユーザーがすでにパフォーマンス問題を経験した後でなければ有用になりません。
Catchpoint IPMはこのモデルを転換し、合成テストを活用してプロアクティブなインサイトを提供します。
つまり、ユーザーに影響が出る前にトラフィックを再ルーティングでき、信頼性とユーザー体験を高める継続的なフィードバックループが構築されます。

次回予告:セットアップガイド

次回の投稿では、Catchpointのテスト設定からNS1へのメトリクス送信、高度なフィルターチェーンの構成まで、インテリジェントトラフィックステアリングの実装手順をステップバイステップでご紹介します。
お楽しみに。

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